第１回
IGES栗山昭久さんインタビュー
再エネ推進の障壁、ユースへの期待
公共財団法人地球環境戦略研究機関（IGES）
気候変動とエネルギー
リサーチマネージャー
栗山 昭久 氏
2011年より、地球環境戦略研究機関（IGES）研究員として東南アジア諸国のエネルギー部門におけるCO2削減プロジェクト導入支援や京都メカニズムなどの国際的なメカニズムの定量的評価・制度構築支援を行ってきた。日本おいては、脱炭素社会に向けたエネルギー問題（長中期シナリオに基づく政策評価、炭素中立（ネット・ゼロ）社会に向けたエネルギー収支分析、再生可能エネルギー拡大に向けた電力システムや雇用に関する問題）に取り組んでいる。工学博士。
再エネの安定供給に挑む
――太陽光・風力と水素蓄電が切り拓く未来
栗山さんは、今後のエネルギー供給において、太陽光発電や洋上風力発電を中心とした電源構成を想定した分析を行っている。中でも、洋上風力発電は昼夜を問わず発電が可能であり、今後の主力電源となることを期待している。
一方で栗山さんは、「再生可能エネルギーを導入するにあたり、昼夜の発電量の変動だけでなく、夏と冬の変動にも対応することが重要だ」と指摘する。夏には太陽光や風力の発電量が不足する時間帯があり、冬に発電した余剰電力を活用する必要がある。そのための技術として、栗山さんは「水素によるエネルギー貯蔵システム」に注目している。
このシステムは、余った電力で水を電気分解し、発生した水素を保存する仕組みだ。必要なときに水素から再び電力を生み出すことができる。このような技術を組み合わせることで、再生可能エネルギーによる安定的な電力供給が可能になると考えられている。
しかし、再生可能エネルギーの推進には課題もある。栗山さんは「新規事業にはリスクが伴う」と指摘する。現行のビジネスモデルの多くは、発電事業による便益が地域住民に還元されることが少ないなどの理由から、合意形成が難航しやすく、大型設備の設置が進みにくい状況にある。また、送配電事業では、ルールや許認可の詳細を事業者ごとに確認するプロセスが煩雑であることも課題の一つだという。
地域が主役のエネルギー転換に向けてーカギは送配電
ドイツでは以前より、「シュタットベルゲ」と呼ばれる、組織による送配電管理が注目されている。「シュタットベルゲ」とは、地域住民や自治体が出資・運営する再生可能エネルギー事業で、収益や意思決定を地域内で共有する仕組み。エネルギーの地産地消と民主的な参加を実現している。このような地域に利益を還元できる発電事業が日本でも実現できるのかという点について、栗山さんは「送電線の管理」に関心を寄せている。
ドイツの送電線は地域の公社が所有する場合が多いため、地域の実情に合わせて、事業計画を考えることが可能である。一方、日本は大手電力会社が送電・配電の管理をしており、地域に根差した発電事業の展開が難しいという。
しかし、そんな日本でも地域で電力をシェアする取り組みが進みつつあるという。世田谷区では、大手発電会社や教育機関などと連携し、家庭用太陽光発電の余剰電力を地域内で利用する実証実験が行われている。栗山さんは、地域と企業が協同したエネルギー事業は今後増えていく可能性があると、一定の期待を示していた。
参画の方法はさまざま
ー良い意味でのインパクトを与えるユース参画を
ここまで再生可能エネルギーと脱炭素社会について詳しくお話を伺ってきたが、このように専門的な議論も多いエネルギーの分野に、知識の乏しいユースはどのように関わっていくべきなのだろうか。
栗山さんは、ユースは長期的な視点を活かして、エネルギーの議論に参加していくことができると考えている。例えば、「長期的な利益の視点をインプットしたり、将来にとって本当に良い制度になっているかについて意見できるのではないか」という。また、脱炭素を進めるにあたっては、地域において長期の投資が必要になる。長期の投資を行うためには、その地域に長く人が住むことや、信頼関係を構築することが重要であり、ユースは今後も地域に住み続ける当事者として、「どのような地域に住みたいのか」、そして「今住んでいる地域の価値や魅力を高めるにはどういうことが必要か」、長期的な視点で考えることが大切とのことだ。
また、権力者への働きかけという観点では、選挙期間中の議員に対してこれまでのやり方で本当に良いのか再考させるような訴えかけを行ったり、就職活動の際に自分たちの価値観に合った企業を選ぶことで、政治家や経営者に真摯なメッセージを発信することも一つの手段ではないかという。他者との意見の相違があることに躊躇する必要はなく、自身が大切だと思う主張を受け止めてもらえるような効果的な方法を模索することが必要かもしれない。その中には、長期的には良いインパクトが形成されるものの、短期的には相手が敬遠するような内容もあるだろうが、自信をもって取り組んでほしいと語っていた。
あとがき
昼夜や季節で発電量が違うといった再生可能エネルギーに対しての課題を工夫次第で解決できることを知ることができ、大変勉強になりました。また、送配電に対して障壁があることを初めて知り、もっと多くの人にそのような情報を広めていきたいと思いました。欧州のような地域分散型発電の実現には難しさもありますが、どのように地域や市民のためになるエネルギー生産を進めていけるのか、またそのような意見をどのように効果的に発信していけるのかについて、ユースとしても考えていきたいと感じました。
普及啓発部兼総務部 川田采奈
政策提言部 酒井美和