第2回
IGES田中勇伍さんインタビュー
地域やユースと連携した再エネの未来


公共財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)
気候変動とエネルギー
リサーチマネージャー
田中 勇伍 氏
地域共生型の再生可能エネルギー、地域循環共生圏の構築、ステークホルダーの参加による分野横断的な脱炭素ビジョンづくり、などをキーワードに研究・実践の両面から活動を展開中。専門はエネルギーシステムと公共政策。京都大学大学院総合生存学館博士一貫課程修了。博士(総合学術)。これまで電源開発株式会社(J-POWER)にて原子力発電所立地業務と経営企画業務に、国際エネルギー機関(IEA)にて再生可能エネルギーの電力系統統合に係る分析業務等に従事。2020年より現在まで神戸大学法学研究科非常勤講師として脱炭素社会に係る講義を担当。
地域と共に歩む再エネの未来
—持続可能な発電事業の鍵とは?
田中さんは、再生可能エネルギーの推進には地域との連携が不可欠だと語る。
「発電事業は30年、40年と続くものです。長期間にわたり地域に信頼され、受け入れられる発電所でなければなりません。そのためには地域と共生する姿勢が重要です。しかし、現状ではFIT制度(固定価格買取制度)の影響もあり、地域共生を考慮せずに事業を進めるケースが多く見られます。今後は、再生可能エネルギー事業において、地域と外部の事業者がパートナーシップを組み、地域共生を進めながら、地域経済にも利益が還元される仕組みをつくることが重要です。」
また田中さんは、現状では火力発電や原子力発電が効率的な選択肢とされており、再生可能エネルギーは蓄電システムのコストの高さから大規模な導入に踏み切れない状況にあると語る。しかし、デジタル技術(DX)や情報社会の発展により、今後は再エネのコストを下げることが可能になると考えられるという。
例えば、時間帯による発電量の変動という課題も、高精度な気象予測や電力需要予測が実現すれば、大量の蓄電池を設置せずとも対応できるようになると指摘する。
さらに、田中さんが注目している再生可能エネルギーとして「浮体式洋上風力」を挙げた。しかし、日本は欧米と比較して風況が悪く、発電効率の低さがコスト上昇につながる課題があるという。このように、日本がもつ自然環境に適した再エネ事業が求められている。
再エネをまちづくりの一環へ
—地域での合意形成の必要性
再生可能エネルギー事業における地域共生は、どうすれば実現できるのだろうか。
田中さんは、再エネをまちづくりの一環として位置づけるべきだと指摘する。
「今までの資源の流れやお金の流れを変えようとすると、色々な人の意識や行動を変えていく必要がありますが、それをうまく回していくだけのモチベーションが地域にないのが現状です。ですが、自治体の担当部署に任せて、縦割りでやっても変革は実現しない。なので、地域のトップが、『まちづくりの一環でこれをやるんだ』という姿勢を明確に打ち出す必要があります。」
多くの地域では再エネに対する関心は低く、温暖化対策として環境の担当部署が取り組めば良いと考えられている。しかし再エネの利用拡大には住宅・建築物や土地利用など他の分野の協力が不可欠であり、地域のお金の流れを大きく変え、新たな仕事も生み出しうるという点で、地域の経営戦略にも直結しうる。今後は地域が主役となって「みんなで取り組む」意識を醸成する必要があるという。そのためには、脱炭素先行地域のように、首長が再エネをまちづくりの一環として推進し、市民やユースも合意形成を後押しすべきとのことだ。
地域と共に再エネ開発を進めるには「エネルギー目線での最適解」を追求するのではなく、「社会全体にとって幸福度が高い解」を目指す総合的な観点へと転換することが求められる。どうすればみんなが納得する形で現状を変えていけるのか。脱炭素をまちづくりに組み込み、地域社会全体で考えていくことが、地域共生の鍵となる。
ユースの強みは将来と向き合えること
—専門家にはできない価値判断を
最後に、専門的な議論も多いエネルギーの分野に、知識の乏しいユースはどのように関わっていくべきか伺った。
田中さんは、ユースは「社会全体にとって幸福度が高い解について意見していかなくてはいけないステークホルダーの一人」だと語る。田中さんからすると、「様々なエネルギー技術の評価などは、効率性など、評価のための特定の枠組みの中で非常に専門的に行われるため、それ自体は専門家に任せておけばよい」が、「その評価枠組み自体が本当に社会にとって望ましいのかは全く別の話」であるため、専門性については気にせず積極的に発言したほうが良いとのことだ。そのため、ユースは専門家ができないこと、つまりは「価値判断」において、積極的に意見できるという。エネルギー需要のあり方は将来社会のあり方に密接に関わってくるため、「技術との向き合い方はこうあるべき」「私たちの安全保障はこうあるべき」といった理想の将来像を見据えて、モビリティの使い方やエネルギーマネジメントの方法等について意見できると有意義だろうというアドバイスをいただいた。
なお、IGESは高校生や大学生に向けた提言ワークショップを実施するなど、ユースが一緒に問題を考えられるような機会も提供している。ぜひこのような機会も活用しつつ、自分たちの将来とエネルギーのあり方を自分事として捉え、意見していくことが大切だろう。
あとがき
地域での再生可能エネルギー事業を進めるにあたって、地域住民との対話を重ねることの重要性を知りました。そのため、私たちもいつか現場に足を運び、実情を知りたいと考えました。また、これまでアドボカシー活動を行う中で、専門的な話ができず自信を失うこともありましたが、ユースは将来の社会について語れるという強みがあることに気づかせていただき、私たちが何をできるかについての視野が広がりました。
普及啓発部兼総務部 川田采奈
政策提言部 酒井美和